④~一期生・谷菜摘さん

長岡市の中心地から少し離れた住宅地。隣は広大な田んぼ。「おうちまるしぇながおか(以下おうちまるしぇ)」を営む谷菜摘さんの店舗兼自宅は「え、ここにお店があるの?」と思ってしまうような、誰もが見慣れた、暮らしの風景の中にあります。

もともと長岡市出身の谷さんは、病を患った身内を看病するため関東へ働きに出ます。数年は職場から入院先へ通う日々。しかし日に日に身内の容態は悪くなり、ついにはお別れを迎えてしまいました
「入院して薬漬けになっても人の身体は治らない」と痛感したこの日々のことは、その後の谷さんに大きな影響を与えます。

その後長岡へ戻り、結婚して子どもを授かります。生まれてきた待望のわが子はひどいアトピー持ちでした。最初は医者から処方された薬を使用していましたが、薬を使用しても治らなかった身内の闘病経験が思い起こされ、薬に代わる方法での治療を考えます。

そこでひらめいたのが食事療法でした。実は子どものころから安全食に関心を持っていた谷さん。中学生の頃は、食品に関する様々な本を読んでいました。その中には、アレルギーに関することや農薬を使用した農作物が人へ及ぼす影響などが書かれていました。
谷さんはその頃のことを思い出し、まずアレルギーの原因と考えられた乳製品をストップします。徐々に改善する子どもの肌に手応えを感じ、さらに食材にこだわってほぼ野菜のみのメニューを3か月続けてみます。これが効果抜群!子どもの肌に格段に綺麗になったのです。

しかしこの生活には難点がひとつありました。それは、「とにかくお腹が空く」ということ。
一般的に、農薬を使った農作物は人の身体に良い影響を与えない。でもお腹がいっぱいになる主食で農薬を使っていないものを探すのは難しい。ではどうすればいい?谷さんは考え続けました。

一方その頃、谷さんには大きな出会いがありました。子どもの肌改善に試行錯誤する中、誰にも相談できずに送る孤独な日々。
そこへ近所のおじさんから子育て支援をしているNPOのイベントを紹介されます。それが、NPO法人多世代交流館になニーナが主催する「にな市」でした。
そこで出会ったになニーナのスタッフや「にな市」の出店者には子育てについて様々なことを相談でき、それまで色々なことに気持ちを張り詰めさせていた谷さんにとって、初めて心から安心できる場所となりました。
そしてこれまで一人で研究してきた食品についても真剣に話を聴いてもらえ、安全食への関心や研究熱がさらに高まりました。

その勢いも手伝って初めてイベントを開催します。目的は安全な食を広めること。テーマを「自然栽培・家庭菜園」とし、無農薬栽培の伝道師と称し全国で活動する岡本よりたかさんを講師に招いて講演会を行いました。
その際に県内の多くの農家さんと知り合い、主に自然農を手掛けている農家さんを巡るツアーも始めます。

そこでは野菜などをつくるための土や水に関することも学べました。

「農業に関することがたくさん聴けたし採れたて野菜なども食べられるし、最高!って思いました。」

と谷さんは屈託のない笑顔を見せてくれました。

そして2016年5月に「おうちまるしぇ」を自宅で始めました。扱っている商品は自分がこれまでに出会ってきて、良いと感じた野菜や調味料などです。

「自分が欲しいものを身近なところで買えるようにしたい。農家を応援したい。良いもの、美味しいものをみんなに知ってもらいたい。そんな想いを込めて開業しました。」

谷さんはその後、さんビズを受講します。
自分の好きなもの、信頼できるものを集めて開店したおうちまるしぇでしたが、当時はその後の方向性が決まっていませんでした。さんビズを受講したことでその核の部分を固めることができたと谷さんは言います。

「事業の方向性を見付けたかったことや、とても気になっていた、鶴岡で3万円ビジネスを行っている井東敬子さんが講師をされると知って受講を決めました。
受講するまで思いつかなかったアイデアとかも生まれて、その中から屋号も作ったんですよ。そしたら色んな企業とやり取りがしやすくなって、仕事もしやすくなったんですよ!」

写真左が谷さん、中央が講師の井東敬子さん

商品の取引が広がる一方、谷さんの安全食の研究も続きます。その中で、自分で「食をつくる」ことが一番安全な方法だと気付き、とうとう自然農での麦や野菜づくりを始めます。

安全にこだわった食品を集め、それを自分の営むお店で販売し、自分でもつくる。そしてワークショップを通して、自分の想いのこもった商品の魅力を伝えるなど、色々な実践を経て、谷さんは今のかたちのお店をつくりあげました。

おうちまるしぇを始める前は、子育てに悩む主婦のひとりだった谷さん。自分に自信が持てず、嫌なことにも気付かず、知らず知らずのうちに我慢してしまうような性格だったそうです。
しかし、取材での谷さんは全く逆の印象でした。笑顔が絶えず、マシンガンのように話し続け、我が道を行く。かと思えば過去の苦労を思い出して、泣きながら笑顔で当時のことを話す。

くるくる変わる谷さんの表情を眺めながら、自分の感情にとても素直に一所懸命生きる、エネルギーに満ち溢れた人なんだと感じました。そしてこのエネルギーを必要とする人は、きっとこの世の中にたくさんいる。

おうちまるしぇを通して、このエネルギーがもっとたくさんの人に届きますように。

(原稿・撮影:さんビズ二期生 尾崎美幸)

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