「待ち合わせは、笹山遺跡で。
そんな不思議な合言葉が似合う女性が、十日町市にいます。それが、さんビズ二期生で大の縄文好きの阿部美記子さんです。
阿部さんのさんビズのテーマは、子育て中のママさんの手助けをする「ママのミカタ」ですが、そのかたわらで十日町にある大好きな笹山遺跡を広める活動に関わっています。
子育て支援が、阿部さんのテーマになるまでの足どりを伺いました。
阿部さんが子育て支援に注目したきっかけは、自身の子育て経験。基本的に、子育ても家事も阿部さんの役割でした。どんなに大変なときでも、『ちょっと助けて』が言えない。ひとつひとつのことは多少無理をすればできてしまうことだから、どうしても一人でやってしまう。そんな日々を送っていて、家事はともかく子育てに関することを頼んでも、簡単に『できない』と言ってしまえる夫に対して無性に腹が立つ。それが嫌で、結局全てを自分で抱え込んで、追い詰めてしまう悪循環を招いていました。
また、子どもから目が離せず家事が滞ってしまったり、ちょっとした相談や悩みについて気軽に話す相手があまりいなかったりしたことも、子育てを大変だと感じた理由のひとつでした。
阿部さんは第3子の妊娠中、洗濯機を回す日常の何気ない動作の最中に突然涙が出てきて、世間から隔絶されたような寂しさと息苦しさを感じました。これが、閉塞感が最高に達した瞬間でしたが、この出来事がその後の生き方や働き方について考えるきっかけとなりました。
この経験を活かして企画しているのが、「十日町市で子育て・むすび」(以下、むすび)という交流の場づくりの活動です。「子どもが公の場で注意される大抵のこと、例えば騒いだり散らかしたりができる場。その間、大人はお茶を飲んでゆっくりしてほしい」という思いで、2016年9月から始めました。
むすびは、毎週木曜日に公民館で行われ、この取材を行った2018年9月現在で合計70回を超えました。参加費は300円でフリードリンク制です。子どものおもちゃや絵本はもちろん、大人が楽しめる書籍なども阿部さん自ら選んで用意しています。また現在は、特技を持つ人とのコラボイベントの開催もしており、親子で楽しむ場にもなっています。
ここまでの話を聞くと、これが阿部さんのさんビズだと思われるかもしれませんが、そうではありません。さんビズのテーマである「ママのミカタ」が生まれるまでには、もうひとつエピソードがあるのです。
阿部さんは子育て中、家事の手がどうしても足りない時はシルバー人材センターを利用していました。比較的安価で、経験の豊富な方が派遣されるので、主婦の「かゆい所に手が届く」サービスでした。掃除や買い物など幅広く家事を担ってくれ、精神的にきつくなっていた当時の阿部さんの気持ちにも寄り添ってくれました。このサービスを求めているママさんは自分の他にももっといるのではないか?と気付きます。この時の経験や気付きが、後に「ママのミカタ」の出発点となりました。
ちょうどその時、さんビズ第1期が開講されることを知ります。自分の持っているスキルや好きなことを仕事にすることで、無理のない生活を送ること、他者と「お互いのできること」を分け合って仕事を生み、より豊かに暮らすことをコンセプトに掲げるさんビスに興味を持ちましたが、当時はまだ準備ができておらず、受講を見送りました。
「この時は自分の具体的なテーマが見えてなくて、申し込みませんでした。何がしたいか、サービスや見通しみたいなものがぼやけていたので、受講するならちゃんとイメージを持って臨みたいと思いました。その後、ママさんのちょっとした手助けをする『ママのミカタ』を思い付いて、具体的に考え出しました。」
第1期の受講を見送った阿部さんは、第2期が始まるまでの1年間で屋号とロゴを作り、テーマを決めました。受講した第2期では、メニューや料金などのより具体的な内容について考えていきます。
受講期間の後半にさしかかった頃、1ヶ月限定でモニターを募りました。1回の利用料を500円に設定しました。サービスの内容は、ママさんが家事や買い物をしている間の子どもの相手や、掃除・皿洗い・アイロンがけなどの家事で、期間中に5人の利用がありました。
「ママのミカタ」が社会的に必要とされていることが分かった一方で、家事代行に高いお金は払えない、つまり家事は誰でもできる安い仕事で、主婦が自分の仕事を低く見積もっている現状も見えてきました。阿部さんは現在、ママさんがサービスを心置きなく使える金額とサービス内容のバランスをゆっくりと探しています。
定期開催している「むすび」で、さんビズ二期生のコラボを多数実現させながら、同期生をつなげている阿部さん。同期の仲間からは、「頼れる存在」と言われていますが、本人はその言葉にいつも謙遜します。そして口癖は、「私には何もないから。」
自分にはできないから、人と人がつながるきっかけを作って何かを生み出す。これは誰にでも出来ることではないし、その力は「むすび」や「ママのミカタ」の原動力になっています。
「何もない」からこそ他人の良さを発見できるのが阿部さんの凄いところであり、多くの人に知ってもらいたい彼女の魅力です。
(原稿・撮影:さんビズ二期生 尾崎美幸[タンポポ舎])
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