「さんビズ的な生き方をしている人がいるから会いに行こう」と、さんビズを運営する榎本さんから、長岡市川口地域に住む砂川祐次郎さんを紹介されたのは2018年10月のことでした。
はて、一言にさんビズ的と言っても具体的な生活が想像つかないぞ?と、どこかふわふわした気持ちで会いに行きました。
お会いして開口一番、「有名じゃない方の川口に住んでます」と、独自の決まり文句で自己紹介されました。不思議なおかしみを感じさせる第一印象だったのですが、この「おかしみ」こそが、砂川さんの魅力そのものでした。そしてこの魅力を形作ったものこそ、砂川さんのさんビズ的暮らしだったのです。
埼玉県川口市で生まれ育った砂川さんは、新潟県妙高市に祖父母がいて、山の暮らしには幼いころから馴染みがありました。いずれ地方で暮らそうと考えており、移住先を探す中で竹田集落に出会います。景色の美しさはもとより、大好きな温泉に歩いて行けることに惹かれ移住を決めました。両親も竹田を気に入り、ついてくることが決まりました。それを機に、思い切って中古住宅を購入したのです。
移住後は、関越道越後川口サービスエリア内にあるガソリンスタンドの従業員として生計を立てます。「上司から言われたことだけをするのは、仕事じゃない」を信念に、工夫することを楽しみながら働きました。その姿勢が認められ、いつの間にか責任ある立場になっていました。
移住から6年経った2004年、中越大震災が川口を襲います。震央の川口は被害が大きかったのですが、親も家も無事で、問題なく暮らすことができました。
震災の傷がまだまだ癒えないその年の冬は、豪雪に見舞われました。雪の重みで空き家の屋根が落ちた、雪掘り中にけが人が出たなどのニュースが流れる中でも、砂川さんの家は無事に冬を越しました。
「震災にも豪雪にもこの家は負けなかった。これはもう、家が『ここで暮らせ』と言っているとしか思えなかった。」と、砂川さんは笑顔で当時のことを振り返ました。竹田でずっと暮らそうと覚悟ができました。
震災から3年後、ガソリンスタンドの運営会社がサービスエリアからの撤退を決めます。これもタイミングかと思い、砂川さんは一度リセットし生き方や働き方を見つめなおすことにします。ここから、砂川さんの新しい働き方の模索が始まりました。
砂川さんの人となりを知るための大切なキーワード、それは復興支援活動に対する砂川さんの姿勢から伝わる「川口への愛」です。砂川さんはこれを「応援」と表現しています。川口への応援は、震災復興のために設立された新潟県中越大震災復興基金がきっかけになりました。その冬の3ヶ月をかけて集落の人たちと地域の将来像についての話し合いの場を作りました。「竹田元気づくり会議」と名付けられたその活動は、現在も続く「かんじきウォーク」などの雪を楽しむイベントを生み出していきました。
その後の砂川さんは、竹田の震災復興活動を続けながら、特技の画力を生かして情報紙やパンフレットの挿絵を描くイラストレーターの仕事、地域づくりに関する仕事で生活を成り立たせています。冬には雪掘りボランティアの受け入れに協力し、参加者の宿泊場所として自宅を提供することもあり、地域の人たちとの交流も行っています。
自分の好きなことや特技を生かして生計を立てることは、さんビズのコンセプトのひとつです。砂川さんの今の生き方は、まさにさんビズ的と言えます。
「自分の原動力は、川口が好きで好きでたまらないという気持ちですね。自分の住んでいる川口を良くしていきたいし、交流人口も増やしたい。そのためにはまず知ってもらわないといけないので、イベントのチラシをいつも持ち歩いていろんな所に配り歩いたり、SNSで情報発信したりしています。」
砂川さんは、まず「自分がやりたいこと=大好きな川口を元気にすること」を始めてみて、その先に生活が成り立てば良いと考えています。楽しいこと、やりたいことが、回り回っていつの間にか仕事になっている、収入につながっていることが多く、心のままに動いていると、思いがけない仕事の依頼を受けることもあるといいます。
好きなことを仕事にする人は世の中に大勢いますが、好きなことをしていたら、自然と仕事が生まれるという考えを実践する、という砂川さんのような存在はなかなか稀ではないでしょうか。
もちろん、この働き方や生活を可能にしているのは、住民同士で助け合う「川口の精神」があるからでしょう。
砂川さんは、竹田の日常を伝えるフリーペーパー「ぼちぼちたけだ」を不定期で発行しています。文章も挿絵も全て手書きの、味のある紙面です。日常の些細なこともトピックに上がっているので、竹田の人たちの暮らしが手に取るように感じられます。
例えば、竹田の将来像について集落のみんなで考えた時のこと。竹田には川口を見渡せる絶景スポットにキノコ形の展望台があり、展望台と散策道を修繕することになりました。誰ともなく自然に集まり、作業が始まりました。散策道は、毎年恒例の「かんじきウォーク」のコースにもなっています。
ぼちぼちたけだには、作業の様子や終わったあとの慰労会の話なども書かれており、読むと思わず「がんばれ」と応援したくなったり、「お疲れさま」と声をかけたくなったりします。
実はこの「ぼちぼちたけだ」、現在竹田で暮らす7世帯の人達が楽しむために作ろうと砂川さんが始めたものです。これだけ少人数のために書かれる地域情報誌は、ほとんど類を見ません。ぜひご一読を。
心の声のままに動いたことが生活そのものになっていく。好きなことをしながらでも、ちゃんと生きていけるんだよ、と砂川さんは行動で教えてくれます。そしてその行動の中にユーモアも忘れないのが、砂川さんが周りの人間に感じさせる「おかしみ」であり、彼の最大の魅力なのです。
(原稿・撮影:さんビズ二期生 尾崎美幸[タンポポ舎])
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