②~一期生・山本しのぶさん・晋吾さん~

「山のグネグネ道を奥へ奥へと進み、夜だと見落としてしまうような所にあるよ。」
十日町市の古民家ゲストハウスやまねこ(以下やまねこ)について、以前からそんな話を聞いていましたが、本当にその通りの所にあったので妙な面白みを感じてしまいました。

山本夫妻が来年6月の開業に向けて準備を進めているやまねこは、そんな船坂集落にあります。
ゲストハウスを営むには便利と思えないこの場所に、なんでわざわざ?という疑問から、山本夫妻がここに住むことに決めた経緯と、やまねこを開業するに至った経緯を深く聞いてみました。

山本夫妻が船坂に引っ越したのは今から5年前。以前は東京で暮らしていましたが、当時から半農半Xの暮らしに憧れを持っていたそう。そんな中、栃木県那須町で非電化工房を主宰する藤村靖之氏の著書『月3万円ビジネス』出会い、そういう暮らしができる場所を探していたところ上越に行きつきました。そして、古民家が手に入るとの情報を得て、現在住んでいる十日町の集落に巡り会いました。

藤村氏が提唱する「月3万円ビジネス」とは、「周りにいる人たちと自分たちのできることを分かち合い、ゆっくりと楽しく生活する」という主旨のビジネスで、自分に無理をさせず、他者と奪い合わず、愉しく仕事を創りだしていくというものです。
非電化工房は、山間に可愛い建物が並ぶ集落のよう。これがどこかムーミン谷を思い出させ、訪れる者をワクワクさせてしまう力があります。住民で協力しながら生活に必要な食べ物や道具、エネルギーをつくりだし、自給自足の生活を営んでいるのが特徴です(詳しくは、「小さなナリワイが大きく育つとき」の記事を参照)。

さてそんな経緯から、山本夫妻は「やまねこ」に落ち着きました。月3万円ビジネスを深めるべく非電化工房の起業講座を受講しようか考えていた矢先、タイミング良く、十日町からさほど離れていない長岡市で「さんビズ」の講座募集が始まりました。すでに読者の皆さんもお気付きの通り、藤村氏の提唱する月3万円ビジネスの考えを新潟の中山間地域向けにアレンジしたのが「さんビズ」です。山本夫妻はすぐに講座に申し込みました。

ここで山本夫妻の紹介を。
「バンドではベースを担当していました!」かと思うような雰囲気を持ちつつどこか土の香りがするイケメン旦那さんの晋吾さんと、くりくりと大きい目で興味津々に色んな物を見つめる子猫のような可愛らしさを持つ奥さんのしのぶさん。この夫婦が醸し出す雰囲気は、初秋の和らかな風のようで、接する者に心地良さを感じさせます。

そんな山本夫妻ですが、晋吾さんはやまねこで農業体験や土壁づくりなど「生活に根差した体験」を、しのぶさんは針子や機織りなど「文化的な体験」を、それぞれやまねこのゲストに提供したいと考えています。

生活する上で欠かせない体験を担当する晋吾さんは軸がしっかりしていましたが、生活を豊かに感じられる体験を担当するしのぶさんは、さんビズ受講当時は当時やりたいことやゲストに提供したいことがまとまらず混乱していました。

さんビズでは、何をビジネスにしたいのかまず自分の内面と向き合います。それを整理した上で提供したい商品を具体的にかためていき、資金や費用についても学んでいきます。

受講期間中に、出席者が少なく講師とほぼマンツーマンになった回がありました。その時にじっくりと講師と話をし、そこでやっとしのぶさんはモヤモヤが晴れたそうです。

「これまでもやまねこのPRを兼ねて自分たちで講師を招いてイベントを企画することがあった。講師に謝金を払うには、何人集めて参加費をいくらにすればいいか。
でもそういうやり方は、自分たちのやりたい働き方、生き方かな?って疑問を感じていて。さんビズの講師とじっくり話して、まずは自分たちがやりたいこと、学びたいことをしっかりやる、やってる中にそれをしたい人が入ってくれるスタンスが良いと感じました。そのためにも、まずは講師から技術を学ぶことが大切だって気付きました。」

物事の重点を講師や参加者など相手に置くのではなく自分達に置き、愉しく生きることこそが、やまねこで山本夫妻の実践したい生き方、ビジネスだと気付いた、としのぶさんは嬉しそうに話してくれました。

最後に、山本夫妻がこれから目指すものを聴いてみました。

「まずリピーターを増やしたいです。農業でもお針子でも、いろんな体験が出来ることを知ってもらい、私たちと一緒に楽しんでほしいです。それで何回もここに来てもらって、この地域の良さを知ってほしい。自然はもちろん、私たちが移住してからずっと気にかけてくれる集落の人達の人柄もすごく魅力的なんですよ。
最終的に、やまねこのリピーターがこの地域に移住してくれたら、って願ってます。」

やまねこでは、10月半ばから毎週水曜日の午後に「やまねこ開放日」も始めました。その名の通り堅苦しさはなく、「その時間にやまねこ開放するよ、みんなおいで~」という感じのゆる~い居場所です。

昼寝をするもよし、雑談やカードゲームをするもよし、針仕事をするもよし。5匹の猫と遊ぶもよし。過ごし方はその人それぞれ。やまねこを通して、ゆっくりと自由にこの集落の良さを感じてくれたら嬉しいとのこと。

これから、この集落も雪に埋もれる季節がやってきます。雪国の生活はもちろんのこと、1年を通して色々な体験が出来てしまう山本夫妻のゆるやかな生活空間にあなたも一度訪れてみてはいかがでしょうか。

(原稿・撮影:さんビズ二期生 尾崎美幸)

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