さんビズ生紹介の第3弾は、中山間地域を支える団体職員の廣橋潤さんです。
今回は取材時間が限られていたため、取材内容をギュッと凝縮して廣橋さんにアタックするという取材でした。
この日は台風の影響で天気も悪い上に寒く、取材で訪れた小国の法末集落で悪天候のピークに遭遇しました。
集落内を車で案内していただきながら、車の中で説明を受ける。集落の随所に見られる絵画のような風景はとても美しいです。
廣橋さんがそんな法末集落で展開したいさんビズの取り組み。今回はそんなお話です。
改めて、みなさん小国の法末(ほっすえ)集落ってご存知でしょうか?長岡市街地から南に1時間ほどの距離にある小国地区の中心部から、さらに東の山あいへ進んだ所にある集落です。
お恥ずかしながら私、この取材をするまで知りませんでした。
この法末、ある筋ではとても有名な集落でもあります。廃校を宿泊施設として平成2年から運営しているという、まさに廃校利用のパイオニア!
また、2004年に起きた中越大震災でどこよりも早く復興に向けて住民自らが動き出した集落でもあります。そんなことから、中越大震災の復興に関わった人たちから「中越の復興はここから始まった」と言われているのだそう。
急激な人口減少を震災前にすでに経験していたこともあり、震災から10年以上経つ今の人口減少は他の集落に比べ遥かにゆっくりです。これは震災を経験した地域にしては珍しい現象で、今も法末に住み続ける集落の住人の強い郷土愛が感じられます。
もともと林野庁に20年勤めていた廣橋さん。子どもの頃から山が好きだったことから、林野庁に勤め森林や林業、木材をメインに山に関する仕事を数多く経験していました。
仕事をする中で、過疎法、山村振興法などにより長年にわたり対策が講じられているにもかかわらず、中山間地域の過疎が止まらない現状を見てきました。果たしてこれは何故なのかその理由を知りたい。
「山仕事は経験してるけど、一カ所に長く住んだことがなく地域の人たちと深くかかわりながら暮らしたことはない」
子どもが保育園に通うようになり、転勤の多い今までの仕事に見切りをつけ、ご主人の仕事にも便利な長岡市へやってきました。そして、ご縁があり現在の職場で働くこととなりました。
転機は、2016年。さんビズの講座が始まると知り、受講を決めます。起業テーマは、仕事を通して関わることになった「法末集落の活性化」と設定しました。
地域の活性化をビジネスに、と言っても、廣橋さんの構想は外貨の獲得に重きを置いてはいません。
外からの人よりもまず法末集落の住人に、集落の良さに気付いてほしい。集落に住む生物や自然環境を地域の活性化につなげ、今あるここの環境を持続させたい。
廣橋さんは、さんビズをそのために活用しようと考えています。
廣橋さんは集落にあるキャンプ場やビオトープを案内しながら、落ち葉や木の肌など色んなモノに触れていきます。その姿はまるで、法末にある全てのモノの存在を確かめているようでした。
しかしそんな風に「じっくりと確かめる」ような素振りを見せたかと思えば、突然山道脇にある木に登り生体観測用の赤外線カメラを設置し始めたりします。しかもとても真剣に、その作業に没頭しています。
予告なしの行動には驚かされるとともに、廣橋さんの自由に自分の気持ちを追及する気性が感じられて思わず笑みがこぼれました。
「法末集落って、あの狭い地域の中に、ある程度の種類の生物が揃ってるんですよ。『この集落でしか生きられない特殊な生物がいる』のではなく、そこそこ万遍なくみんないる。そしてそれは、人の手が入った田んぼがあるからこそ生きられる生物たちです。つまり、人と野生の生物が上手に共存できている地域ということ。」
「そこが法末集落の最大の魅力だと思ってます。でも、地域の人ってそれに気付いてないんですよね。『凄いことなんだ』って気付いてほしいし、関心を持ってもらいたい。自分が動くことで、地域の人に関心を持ってもらいたいっていうのが一番の願いです。」
現に法末集落では、メダカやゲンゴロウなど住宅街に近い田んぼでは一般的にあまり見つけられなくなった生物が生息しています。また、激減したと言われるシナイモツゴ(コイ科の淡水魚。5~8cm程度の大きさで、環境省レッドリスト絶滅危惧IA類に分類されている)もきちんと生きています。これらの生物は、かつては日本の至るところで普通に目にすることができました。
「絶滅危惧種と分類されている生物でも、法末集落の田んぼのようにいる所にはいるものなんですよ」
と、国と現地の視点の違いに存在する可笑しみを表すように廣橋さんは笑顔で教えてくれました。
廣橋さんは、法末集落で自然環境に親しむイベント企画を、さんビズ受講中や修了後に何度か開催しています。池に入って昆虫を捕まえて調べたり触ったりすることで、自然に親しんでもらおうという内容です。
実際に参加者はあまりなかったのですが、そのことからこの地域での「自然に親しむ」というニーズの少なさを感じたのだとか。
イベントで集落を活性化させるよりも、昆虫や両生類の危機的状況に世間では関心が強いことも知ったので、人の呼び込み方を「自然環境を守るためのボランティアやお手伝いをお願いする形」に変えようかと考えているそうです。
そしてそのためには、まず現状を把握することが大切だと、廣橋さんは考えています。
「私にとっての法末の良さは、自然環境が一番。しかしながら、周りから聞いていた通り、それなりに自然が身近にある新潟では、自然観察系のツアーでは人が集まらないので、生物の保全あるいは棚田の保全といった形のボランティア、あるいはサークル形式の活動に切り替えようかなと思っています。」
何度か試したことで気付いた、廣橋さんの行いたいさんビズと世間でのニーズのギャップ。それを埋めるために考え出された新たな方法。
きっと廣橋さんなら、何度でも色んなことを試して「さんビズを利用した法末集落の活性化」という自分の夢を叶えるんだろうなと思いました。
私が法末集落を訪れたのは、冬を感じさせるような寒い秋の日でした。しかし晩秋のその景色は、たとえ嵐のような天気でも美しさを感じざるを得ませんでした。
桜の咲く春、蛍の飛び交う夏。これから迎える季節に、それぞれにきっと絵画のような景色を見せてくれるのだと思います。
そして大雪に彩られている法末集落の今の景色を夢想しながら、その地面の下に眠る両生類に「春になったら会おうね」と命のエールを心の中で送ってみたりするのです。
(原稿・撮影:さんビズ二期生 尾崎美幸)
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