四方に伸びるとげを表す「朿」を縦二つに並べるなつめ(棗)は、枝の棘に特徴のある植物です。秋になると、青リンゴのようなほのかな甘みと、シャクシャクとした歯ごたえの実がびっしりとなります。
かつては日本のどこでも見られる木でしたが、現在では管理のわずらわしさから少なくなっています。
そんななつめが、ある家の庭に2本、のびのびと育っています。このなつめを活用しようとさんビズを始めたのが、小千谷市の大平美恵子さんです。
さんビズの受講を決めたときには、大平さんは全く別のテーマでさんビズを実践しようと考えていました。それはインストラクターの資格を持つハーブに関することです。
40代が終わる頃に両親の介護と子育てが一段落し、以前から興味を持っていたハーブについての勉強を始めました。ハーブに関する資格取得をした新潟市西区のハーブランドシーズンは体験型のハーブ園で、現在ではインストラクターの一人として活躍しています。
資格を活かして何かしないのかと周囲から聞かれることもありましたが、イメージが特に持てませんでした。具体的に考えられるようになったきっかけは、2017年8月に開講した第2期さんビズの受講でした。
さんビズとの出会いは、地元新聞に掲載された受講生募集の記事でした。無理のない身の丈にあったビジネスを掲げているさんビズに興味を持ち、ハーブを使って何かできないかという思いで受講しました。
自分の持っているスキルや身近な資源を活かすこと、月3万円という無理のない目標設定は、ハーブの知識を活かして何かやりたいという大平さんの思いにぴったりでした。
しかしその考えは、さんビズの受講を通して変わっていきました。自分が元々持っている性格・想い・スキルの棚卸し作業に始まり、身近な資源を洗い出しビジネスプランを考える内容に進んでいくうちに、「私にはなつめがあるじゃないか」ということに気付きました。
家族からは厄介者扱いをされていたなつめ。木を切り倒せば良いじゃないかと何度提案されても、毎年たわわに実をつけるなつめに強い生命力を感じ、どうしても切ることは決断できませんでした。そしてハーブではなく、ずっと気にかけてきたなつめを使って何かしたい、なつめを世に出したいと考えるようになりました。
大平さんがなつめに思いを寄せる理由がもうひとつあります。
中国では「1日に3粒なつめを食べると老いない」ということわざがあるほど、なつめの効能は高いのです。鉄分・カルシウム・ビタミンB5などの栄養が豊富で、ストレス耐性の向上、不眠や体調不良の緩和作用があると言われており、このような症状を持つ人には、なつめを成分とする漢方が使われる場合もあります。
この「なつめの持つ力」を、家族や友人たちをはじめ、無理をして体を崩しがちな現代人に役立ててほしいと大平さんは願っています。
今は、保存がきいて家庭でも使いやすいドライフルーツの状態で販売していますが、おやつとしてそのまま食べる、料理に使う、なつめのお茶やお酒などの加工品にするなど、なつめの使い方は多種多様。
さんビズ第2期の成果発表会では、なつめ茶やドライなつめを振る舞い、参加者から大好評でした。
さんビズをふり返って、大平さんは嬉しそうにこう語ります。
「この講座を受けたことで、やっと今後の方向を決めることができました。何より、ここで出会えた人たちとのつながりは宝物です。私は情報発信をして自分をPRすることが苦手なんです。さんビズの仲間にはイベントを企画できる人がいて、情報発信が得意な人がいる。私は植物に関するお話やワークショップを提案できます。みんなが集まって、お互いの出来ることでワークショップを企画しながら、やりたいことや必要なことを共有して実現していきたいです。こんな思いは、さんビズを受講しなければ経験できなかったことです。」
今後の目標は、なつめの魅力が伝わる商品開発を行うこと。そしてなつめが、必要としている人の手に届くこと。「届ける」ではなく「届く」という言葉から、大平さんの「必要な人のところに自然と届けばいいな」という、控えめながらも芯の強い想いが伝わってきます。
以前、大平さんから「植物は自分の体に合った所でないと育たないの。種は飛んでいく場所を選べないけど、行きついた先の土と環境が合わなければそこで繁殖はしない。自分に合うと思った場所でしか生きられない。ちゃんと意思があるのよ。」と聞いたことがあります。植物に寄り添いながら、自然に身をゆだねて穏やかに生活する大平さんの性格がよく伝わってきました。
大切な仲間と関わりながら、自分のペースで楽しく歩を進めてゆく。大平さんのさんビズは、まだまだ始まったばかりです。
(原稿・撮影:さんビズ二期生 尾崎美幸[タンポポ舎])
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