果たしてこんな山奥に本当に人が住んでいるのだろうか。
訪れる人に、不安と同時にそれ以上の何倍ものワクワク感を持たせてしまう場所があります。上越市の深い山間にある川谷地域に、さんビズ二期生の石川盛和さんは住んでいます。

石川さんは、自宅のある集落からさらに山に入った場所に、20枚もの田んぼを持ち、ひとりで切り盛りしています。独り立ちしてまだ2年ですが、つやつやと光り輝く甘いお米を作ります。この美味しさは、食べる人に「石川さんの川谷への愛情そのもの」だと感じさせる力があります。
今回は、助け合わなければ生活できない山の中で、さんビズを実践する石川さんのお話しです。

子どもの頃は、喘息持ちで体は強くなかったという石川さん。体の状態が生活環境に左右されがちだったことから、小さな頃から環境問題に興味を持ちました。福祉系の大学に進学し、卒業後は4年ほど福祉施設で働きました。
退職後は、環境問題に取り組んでいるNPO団体でのボランティアをしながら、バイトで生計を立てて過ごします。ボランティア活動を通じて、「大量生産と大量消費がこの国を汚している」と感じ、ストレスを感じないような仕事に就きたいと願うようになりました。
考えるうちに行きついたのが、マッサージ師でした。
「マッサージの目的は人の体にある疲れを取り除くことでしょ。人を元気にする仕事。ゴミを出すわけでもない。マッサージを終えたお客さんの体が軽くなって帰る様子を見るのが嬉しかったな。」と、石川さんは当時の日々を振り返ります。
しかし、8年間マッサージ師を続けて、あることに気付きます。定期的に通ってくるお客さんを見ても、「お客さんの症状は結局治っていない」ということでした。
また、環境問題に取り組んでいた経験も活かし、お客さんに「お天道様の昇り降りに合わせた生活リズムこそ、身体に優しいんだよ。農薬の少ない農作物を選んだ方が良いよ。」などとアドバイスする一方で、自分自身も長時間、夜中に働き、ジャンクフードをついつい食べてしまうことにも疑問を感じました。
仕事や自分の周辺環境に矛盾を感じたことが、石川さんを次のステップに進ませます。それが、地域おこし協力隊への応募でした。

「人の身体に良いことで、環境にも良いことをしよう。じゃあ、環境に配慮した生活とはなんだろう?」と考え、行きついたのが農業でした。実は石川さんの実家は兼業農家。マッサージ師を辞めると決めた時、実家に戻ることを考えましたが、新たに一人を雇える余裕はありませんでした。
偶然にもそのタイミングで、「作業補助をしながら農業の勉強が出来る」と募集要項に記載された地域おこし協力隊の募集を見つけ、申し込みました。着任先は、現在も住み続けている川谷集落でした。
川谷では、これまで石川さんが想像しなかった世界に出会います。

石川さんが着任した川谷は4集落からなり、20世帯41人が住んでいます。神社のお祭りや管理、農作業も冬の準備も道普請も、生活に関わるあらゆることが「一人ではできない」ところと言えます。いつかなくなることが簡単に想像できてしまう場所で、実際に集落の人も半ばあきらめかけていた空気があったそうです。ただし、これは7年ほど前までの話でした。
その空気を変えるきっかけとなったのが、天明さんという移住者家族の存在です。天明さんは川谷での暮らしを本としてまとめ、それを読んだ別の家族がさらに移り住んでくる。あきらめかけていた集落の人の中に「もしかしたら」という希望が生まれてきました。さらにその流れを後押ししたのが、地域おこし協力隊として着任した石川さんの存在でした。

隊員となった石川さんは、お年寄りの生活支援・都市農村交流・農家の手伝い・多世代交流など、様々な集落支援の活動を担いました。集落の存続を望む住民にとって、石川さんの移住は希望であり、大切にしたい存在そのものでした。そして石川さんは、その想いを敏感に感じ取っていました。
「集落での暮らしは、不便なことの方が多いです。助け合わなきゃ生きていけないからこそ、『お互い様』の精神で成り立っている。移住して、集落の皆さんに本当にすごくお世話になっている。自分が存在してるだけで有り難がられる存在だって、ここで初めて感じましたよ。」と、石川さんは照れながらも、しっかりと言葉にしました。
苦労も多いけれど、自分を大切にしてくれる川谷に恩返しがしたい。だからこの地にずっと住み続ける。この想いが石川さんに永住の決心をさせました。

決心したものの、どのように仕事と暮らしを作っていくのか、日々の農作業をしながらも、頭の整理は追いつきませんでした。その矢先に出会ったのが、さんビズです。
自分の内面と徹底的に向き合い、具体的にビジネスプランを考えるプログラム。そして、何よりも刺激し合える仲間との出会いにより、米作りの他に田んぼでできること、チャレンジしてみたいことが見えてきました。

それは棚田のオーナー制度、田んぼに親しんでもらうための田植えや稲刈りなどの農業体験、体験後の食事会などです。この体験で使う田んぼは、石川さんが耕さないと即、耕作放棄地になってしまいます。農薬をなるべく使わず、ここにいる貴重な生き物の棲む場所を守っていきたい。その想いを、たくさんの人と体験を通して楽しみながら耕せたら良いと考えました。
実際に、農業体験はさんビズの受講中にお試し企画として開催し、二期生3名と家族が参加しました。評判は上々でした。
実施して参加者の反応を見て、「農業技術や身近にあるものを使ったイベントを企画する力を見に付けてそれを外部に示せたら、お客さんは付きそうだ」という自信も生まれました。

冬になり、石川さんは今、農作業に伴う事務作業に追われています。今年度は、猛暑と生き物田んぼにこだわって農薬使用を控えたこと、春からの営農計画の準備不足のために収穫量が激減し苦しみましたが、この経験を生かして来年度は収穫量を初年度並みにしなければと気を引き締めています。
石川さんの美味しいお米を、さんビズ仲間をはじめ多くの人が待っています。

(原稿・撮影:さんビズ二期生 尾崎美幸[タンポポ舎])
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